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せつなさを櫛で梳かして目をふせる睫毛のさきで雪どけを聴く
巡らない季節はない。
溶けない雪がないように春は必ずやってくる。
けれどひとのこころは冬の期間があまりに長いと凍え、
やがて諦めと無情に支配されてしまうことがある。
うつむいて歩みを止めてしまうと、また歩きだすまでに力がいる。
冬の寒さに凍えうつむきたくなったら、目をふせながらそっと歩いてみる。
春はすぐそこまで来ていると信じて。
この想い雪花に告げて溶けてゆく好きでした、あぁ好きです今も
止まらぬ想いに恐怖心を抱いたことがないだろうか。
「想い」というものほどひとの思い通りにならないものはない。
もういいと諦めたつもりでも、諦め切れていなかったり、
ある日突然思いもかけないじぶんの「想い」に気づくこともある。
そんなままならない人間だからこそ楽しいのかもしれない。
手を離す準備はできたでかけよう愛のことばはさよならがいい
はじめての別れは子どもの頃に死んだ飼い猫の死だったろうか。
飼い猫といっても縁側で飼う半分ノラ猫だった。
それでも雨の日に死んだのを今でも憶えている。
それから多くの人との「別れ」を経験したはずだ。
けれど別れに慣れることはなかった。
最近ようやく別れがあるからいいのだと思えるようになった。
束の間の別れと束の間の愛の中で生きようと思う。
こんこんと溢れる水に溺れかけビートバン抱き蛇口をさがす
知らず知らずのうちに溺れてしまうこと、
わかっていて溺れてしまうこと、またその溺れかたも様々だ。
わたしのビートバンは今どこにあるのだろう。
いつ何時、溺れるかだれにもわからないのだから
ビートバンの在りかだけはわかっていたい。
ビートバンがなくなっていたら、今からでも手にいれよう。
夜が降るきのうも降った今夜もね、かなしいほどにやさしいひつじ
眠れない夜がある。
そんな夜が嫌いではない。
疲れて早く寝てしまう夜がもったいなくてしかたがない。
この眠りにつくまでの時のなんという贅沢なこと。
一日のすべてを癒す眠りに今夜も身を委ねよう。
明日のために。
チョキチョキと切り抜いたのは嘘泣きです天使の羽と切れないハサミ
我が家の天使は一日のほんの束の間、天使であり
あとはたいてい悪魔の申し子のような有様である。
嘘をつき、嘘泣きをする。
それもばればれの嘘をつき、ばればれの嘘泣きをする。
全身でじぶんを見て欲しい、かまって欲しいとアピール。
たまに泣き顔がみたくて泣かせてみたりもする。
いまさらだが母になりたかったとも思う。
この星がいまもほんとに青いのか海をしらない青虫に聞く
世の中のほとんどのことをわたしは知らない。
知っているのはほんとうに極一部のことだけ。
それも正しいかどうかなんてわからない、ただ単に知っていると
思いこんでいることだって大いにある。
でも大切なのは知っているかどうかよりも知ろうとするかどうか
なのかもしれないとぼんやり思う。
足の裏さみしい沼を飼っている思い出喰らい泣いては縮む
「時間」はやさしくもありひどく残酷でもある。
笑っても泣いても止まらない時間のなかでそれでも
笑ったり泣いたりしながら忙しく生きていかねばならない。
思い出のうえに思い出を積み重ねて。
その中で薄れゆくものがあるのだとしたらそれは、
仕方のないことなのだろう。
ほんとうに大切なものは薄らいだもののなかでもひっそりと
呼吸しつづけるだろう。
がりがりと冬の夜空でかき氷待ってもこない言葉をください
欲しい時に欲しいひとから、欲しい言葉というのはなかなかもらえない。
あしたは雪が降りそうだと天気予報がいっていた。
わたしの住む地域ではめったに雪は降らない。
あした雪が降ってほしいと、思っている。
雪に閉じ込められて一日を過ごしたいと。
肌色が肌にくるまれ夢をみる溶けあってほら、しじまが眠る
いがいと物音ひとつしない夜というのはないものだ。
どんなに静かなひとりきりの夜でも冷蔵庫や加湿器はひそやかに話しだし
時計さえもがカチコチと自己主張してみたりする。
そんな雑音がまったく耳にはいらない夜もある。
そんな時はたいていくるまれているのだ、あたたかいものに。
ひとの耳のなんてあてにならないことか、ちょっとしたことをうるさがったりしたら
罰があたりそうだ。
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